乳がんの化学療法は手術前に行なった方がいい?手術後に行った方がいい?- 林田医師のオピニオン

林田 哲 医師
[オピニオン]
慶應義塾大学病院 ブレストセンター長

乳がん全体の30-40%程度に、「HER2陽性タイプ」および「トリプルネガティブタイプ」と呼ばれるサブタイプが存在します。

手術前にこれらのサブタイプで腫瘍の大きさが10mm以上と診断された患者さんは、ガイドライン上は抗がん剤治療が強く推奨されますので、特別な例外を除いて、抗がん剤治療を必ず行うことになります。

現在までの臨床試験の結果から、抗がん剤治療を手術の前に行っても、手術の後に行っても、治療効果は一緒であるということが判明しています。

術前化学療法にはいくつかのメリットがあるため、前述のサブタイプの患者さんに対しては、術前化学療法を行うことが検討されます。
術前化学療法のメリットとしては、以下が挙げられます。
・腫瘍が縮小することで、全摘術が必要なケースが乳房温存術を検討可能となる
・腫瘍の縮小の度合いから、治療効果の予測が可能となる

また、「HER2陽性タイプ」については、手術後に行う薬物療法を腫瘍の残存の有無から変更する、”response guided therapy”(治療効果を指針とした薬物選択)が有効であることが直近の臨床試験の結果から示されています。

一方で、いわゆる「ルミナルタイプ」といわれる、HER2陰性かつホルモン受容体が陽性なサブタイプは、手術から得られる情報である、腫瘍浸潤経の大きさ、リンパ節転移の有無などを参考にして慎重に抗がん剤治療を行うかどうかを決定しますので、特別な場合を除いて、術前化学療法を行うことは控える傾向にあります。

まとめると、「抗がん剤治療が必須であり逃れられない」場合は、術前化学療法のメリットを享受するためにこれを検討します。

ただし、年齢・医療費などの社会的背景や、腫瘍があまり大きくない場合、また手術までにサブタイプ診断がはっきりしない、もしくは手術があまり待たずすぐに施行できる場合は、前述のとおり「治療効果は変わらない」ので、手術先行で化学療法を術後に施行する場合も数多くありますし、これも間違った治療ではありません。

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[備考] 本オピニオンは、医師が経験に基づき一般的な医学的見解を述べたものに過ぎず、個別の事例についての所見を述べたものではありません。 個別の症例については、必ず医師に直接ご相談下さい。

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