まず、専門医によって医学的・技術的に、そもそも乳房温存手術が適切ではないと判断された場合は、全摘手術を選ぶしかありません。その場合は乳房再建手術などを検討していくことが可能です。
温存手術が可能であると判断されたにも関わらず、全摘手術を行うべきかどうかについては、そのメリット・デメリットの内容を整理して検討する必要があります。しかし、議論の大前提として『温存手術(+放射線)を行おうが、全摘手術を行おうが、「全生存率」は変わらない』という医学的なエビデンス(臨床試験の結果)が存在することを理解する必要があります。全生存率とは、手術を行ってから一定の時間(例えば10年間など)が経過した場合に、何%の人が生存状態でいられるかという割合で、一般的には予後といわれ、治療効果の一つの指針になるものです。
仮に、全摘手術を行った方がこの全生存率が高いということであれば、予後の面では全ての人が全摘出をする方が有利ということになり、温存手術はなりたたなくなります。しかし、実際は前述の通り温存手術でも全摘手術でも全生存率は変わらないという医学的なエビデンスが存在するため、広く温存手術が行われているのです。では、メリット・デメリットとはどのようなものでしょうか。
[乳房温存手術]
[乳房全摘術]
局所領域再発とは、温存した乳房や皮膚へのがんの再発や、腋窩リンパ節転移再発のことを指します。ただし、温存した乳房に新たな乳がんが再度発症した場合も局所領域再発に含まれますので、どうしても乳房温存術では局所領域再発が増えてしまいましす。
この局所領域再発はそれほど頻度の高いものではなく、放射線照射をしっかりと併用することで、文献的には1−5%くらいの頻度であると考えられています。また、局所領域再発を生じてしまった場合でも、再度手術が行われることで、根治を十分に目指すことが可能です。
結論として、医学的・技術的に温存手術が許容される場合は、乳房温存手術をお勧めします。局所領域再発のリスクは十分に許容範囲であり、安全に整容性を保った手術が現在は行われています。
一方で、ご高齢で放射線照射に通院することが困難であるなど、特別な理由がある場合は温存手術が可能な場合でも、全摘手術をお勧めするケースは存在します。
医学的・技術的に温存手術が可能かどうかの判断は、多くの場合で医師の裁量に任されることが多く、迷う症例では全摘出を選ぶ傾向にある医師も多く存在します。
温存手術は不可能であると言われて納得できない場合には、セカンドオピニオンを受けて、納得のいく治療を医師と相談しながら選択していくのも一つの方法です。
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[備考] 本オピニオンは、医師が経験に基づき一般的な医学的見解を述べたものに過ぎず、個別の事例についての所見を述べたものではありません。 個別の症例については、必ず医師に直接ご相談下さい。