乳腺組織は皮膚と大胸筋の間に存在する組織であり、この乳腺組織から発生する悪性腫瘍が乳がんです。治療を行わずに乳がんを放置してしまうと増大し、いずれは皮膚や筋肉へ到達してしまい、これを侵す「浸潤」という現象が起こります。
皮膚浸潤をさらに放置すると、がん細胞が皮膚を食い破り、むき出しの状態となることで、簡単に出血が生じたり、潰瘍や膿瘍を形成したりして悪臭を放つことがあります。これが局所進行乳がんの一つに分類され、俗にこの状態を「花咲き乳がん」と呼ぶことがありますが、決して美しい花ではありません。
この状態で初診される患者さんに全身の検査を行うと、多くの場合で乳がんの遠隔転移が存在します。そのため、手術ではなく薬物療法(内分泌治療や抗がん剤)を選択し、全身の治療の一環として乳房の腫瘍についても縮小を図ることがほとんどです。その際に、出血や悪臭のコントロールを皮膚科の先生と一緒に行っていくこともあります。
一方で、これらの一般的なケアでは日常生活を通常通り行っていくことが困難な場合には、治療目的ではなく、生活の質を保つために手術療法や放射線療法を選択することがあります。
遠隔転移の存在しない局所進行乳がんについては、やはり薬物療法を先行して行い、乳がんの存在する部位が全て切除可能と判断されるまで縮小を図ります。
通常の皮膚切開ではがん細胞を全て取り切れない場合は、形成外科の先生と共同で植皮(皮膚を移植する手術)を併用しながら切除を行い、多くの場合で術後に放射線照射を行うことになります。
「花が咲く」まで乳がんを放っておくことは、通常では考えられないことですが、乳がんというのはとても精神的につらい疾患で、正常な判断ができずに日々が経過してしまうために、このような局所進行乳がんが生じてしまうことがあります。
ご家族や医療者は患者さんを責めずに、治療にしっかりと向き合うことをお勧めしてあげてください。
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[備考] 本オピニオンは、医師が経験に基づき一般的な医学的見解を述べたものに過ぎず、個別の事例についての所見を述べたものではありません。 個別の症例については、必ず医師に直接ご相談下さい。