乳房再建手術は安全に行うことができますか?- 林田医師のオピニオン

林田 哲 医師
[オピニオン]
慶應義塾大学病院 ブレストセンター長

医学用語では、外観や見た目が整ったさまを「整容性が高い」と表現することがありますが、乳房再建術を行う最大のメリットはこの整容性を高く保つことができることです。これにより患者さんの満足感の向上や、乳房を失ってしまうことによる精神的なショックを軽減することができるため、手術を行う際の重要な選択肢となっています。

乳房再建術は手術を行う時期と方法で、以下のフローチャートのように分かれます。

このように、乳がん手術と同時に行うかどうか、エキスパンダーを一時的に挿入して皮膚を拡張するかどうか、の2 x 2の選択によって、4通りの治療の流れが存在します。どれを選ぶかは、再建を担当する形成外科の先生の意見を参考にしたり、乳がんの進行度合いなどを考慮したりして主治医と相談するのがよいでしょう。

私個人の意見としては、比較的進んだ乳がんに対しては、手術・抗がん剤などのメインの治療を終えて、一息ついてから再建を考えるのがお勧めと考えています。なぜなら、再建術を行ったことが原因でトラブルが生じると、その後の抗がん剤治療などの開始時期が遅れがちになり、最も重要な乳がんの治療が滞るケースがあるからです。

乳がん手術と同時に再建術やエキスパンダー挿入を行う場合のデメリットとしては、術後の合併症(感染・出血など)の増加、入院期間の延長、術後の痛みの増悪、などがあります。特に、感染などの合併症が生じた場合は、せっかく挿入したエキスパンダーやシリコンを最悪抜去することを考慮しなければならないケースがあります。

挿入したシリコンの耐用年数は10年〜15年と考えられており、それ以上の年月が経過すると破損の恐れなどがあるため、抜去・交換する必要があります。乳房再建術の技術は向上しており、ほとんどのケースで前述したような合併症は生じずにスムースに治療が進行するので、適応となる全ての患者さんにお勧めできる手技です。

しかし、万が一トラブルが生じても後悔しないように、自分にとって乳房再建術がどのような意味・価値を持ち、何のためにこれを行うのかということを振り返って考え、納得して手術を受けることが重要です。

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[備考] 本オピニオンは、医師が経験に基づき一般的な医学的見解を述べたものに過ぎず、個別の事例についての所見を述べたものではありません。 個別の症例については、必ず医師に直接ご相談下さい。

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