乳がん検診、超音波(エコー)検査はやった方がいい?- 林田医師のオピニオン

林田 哲 医師
[オピニオン]
慶應義塾大学病院 ブレストセンター長

自治体などが行う対策型検診の究極的な目的は、ある集団(例えば40歳以上の女性など)において、対象とする疾患(乳がんなど)による死亡率を下げることです。その意味で、医学的なエビデンスを持つ検査は今のところマンモグラフィーのみです。

しかし、このエビデンスは20−30年前に欧米で行われた臨床試験をもとにしており、日本でもこれを踏襲して自治体の検診制度がデザインされていますが、欧米のデータがそっくりそのまま適用可能かどうかは検証されていません。例えば、日本人女性は高濃度乳腺の割合が欧米に比べて高いと考えられています。また、欧米では乳がんに罹患しやすい年齢は70代から80代と比較的高齢ですが、日本では40代から50代が好発年齢です。この年齢の方は高齢者に比べて乳腺の組織濃度が高い傾向にあります。

これも欧米のデータですが、マンモグラフィー検診は受診者の年齢が高い方が有用であることが報告されており、米国では適切なマンモグラフィー検診の年齢は50歳以上であるとされています。閉経すると乳腺は萎縮して濃度が低くなり、その分マンモグラフィーの有用性が増すというわけです。

乳房超音波検査は、乳腺組織のボリュームや濃度に関わらず、しこり(腫瘤:しゅりゅう)を認知する能力に長けています。その意味で、比較的若い患者さんの腫瘤性病変を発見するのに有用であると期待されます。

J-STARTという東北大学が中心となった臨床試験では、40代女性にマンモグラフィーと乳房超音波検査の両者による検診を行うと、早期乳がんを発見するケースが有意に増えたという結果が報告されました。ただし、要精密検査率が増加したため、この結果をもって一概に超音波による検査が、自治体などが行う対策型検診として有用かどうかを判断することができないのが難しいところです。

人間ドックなど任意型検診として、コスト・手間を度外視した場合は、乳房超音波検査を用いたスクリーニング検査は有用であると私は考えています。ですので、乳がんに対してしっかりと備えたいと考える女性には、コストはかかりますが、マンモグラフィーに加えて乳房超音波検査を併用することがお勧めですとお話ししています。

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[備考] 本オピニオンは、医師が経験に基づき一般的な医学的見解を述べたものに過ぎず、個別の事例についての所見を述べたものではありません。 個別の症例については、必ず医師に直接ご相談下さい。

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